時代に伴う葬儀事情の変化について

従来型の葬儀は規模の両極化が進む傾向

何事も時代に合わせて変化し、その時流に沿ったスタイルに徐々に改められていくものですが、葬儀も例外ではありません。そこで、現代の葬儀動向について説明しておきましょう。
かつての日本の葬儀は、「家」を中心に行われてきました。これは封建時代の大家族制度に基づき血縁によって結ばれた「家」の概念によるもので、本家・分家の関係、親族の関係、または「家」と地域との結びつきなどを重視する、「社会的儀礼」としての意味合いが大きいものでした。
このため、規模の差はあれ、世間の常識から大きくはずれるスタイルの葬儀は避けられました。その地域に伝わる風習に厳密にのっとった葬儀を形通りに行うことが、「家族制度が守られ、親族の統制がとれており、地域への親和性も高い証拠」という一種の基準になっていたようです。
しかし今日では「家」の概念は大きく変わり、親・子・兄弟といった、近しい直系親族が中心となって、小さな「家」が構成されるようになりました。また、昔よりはるかに「親族」に対する考え方の範囲が狭くなり、葬儀も直系親族およびふだんから交流のある近しい親族だけで行われるケースが増えています。
もちろん、従来型の親族・地域との結びつきの深い大規模な葬儀は今日でも多く行われていますし、電話・インターネットなどの連絡手段や、交通機関の発達によって、むしろ昔よりも広範囲なエリアから人が集まる葬儀は増えています。
しかしその半面、昔は親族の世間体や近隣・地域への遠慮から数が限られていた密葬や家族葬の数が増え、形式的には従来型の葬儀であっても、その規模や参列者の範囲は昔に比べて両極化が進んでいます。

自由なスタイルが認められる今日の葬儀

子どものいない夫婦二人世帯や高齢者の単身世帯の増加といった世の中の変化は、通夜を省略する一日葬、葬式・告別式などの社会的儀式を行わない直葬といったシンプルな葬儀のスタイルも一般化させました。
また、都市部を中心に世間体や近隣・地域への遠慮といった意識が薄れ、故人の意志や価値観を尊重した自由なスタイルの葬儀に対する抵抗も少なくなってきました。
このため、生前に家族・友人・知人などへ厚誼の感謝を伝える「生前葬」、音楽好きな故人のために音楽を中心として式を進行する「音楽葬」、絵画や写真を職業/趣味とした故人のために会場を絵画や写真で埋め尽くす「絵画葬・写真葬」、故人が愛した旅先のホテルなどでお別れ会を兼ねて行われる「ホテル葬」など、形式にとらわれず、もっとも故人が喜ぶスタイルを追求した葬儀も増えています。

宗教にとらわれない葬儀も増加

日本で行われる葬儀は相変わらず圧倒的に仏式が多いのですが、かつての檀家制度の名残りであり、「家」の意識の変化とともに、「信仰をともなわない形だけの仏教徒であれば、仏式葬に囚われる必要はない」と考える人も増えました。
現代の日本では信教の自由が憲法で認められており、また宗教を持たない自由もあります。このため、特定の宗教形式に基づかない無宗教葬も多くみられるようになっています。
宗教の自由といえば、特定のお墓を持たず、遺骨を粉末化して海に還す「海洋散骨」を希望する人も増えています。また、お墓は建てるものの、特定の宗教に基づくお墓ではなく、自然の樹木を墓標とする「樹木葬」などの自然葬も珍しくなくなりました。
なお、非常に珍しい例としては、粉末化した遺骨をカプセルに入れ、ロケットで衛星軌道まで打ち上げるという「宇宙葬(宇宙散骨)」の例もあります。日本でも海外の民間宇宙開発会社と提携し、宇宙葬を手がける葬儀会社があります。
葬儀に対する考え方は人それぞれで、「伝統に基づき、粛々と行う葬儀が良い」と考える人もいれば、「その時代にマッチした葬儀のしかたが良い」と考える人もいます。どちらが正しい・間違っているという問題ではないでしょう。
葬儀で大切なのは、故人を想い尊重する気持ちです。また、ともに故人の冥福を祈り、哀悼の意を表し、残された者たちが力を合わせて行きていけるよう、協力と励ましの誓いを共有することです。
葬儀の形にこだわる必要はありませんが、どのようなスタイルの葬儀であれ、このことだけは忘れないでいただきたいと思います。

女性の喪服の家紋について

女性の和装の正喪服の家紋が葬儀で問題になる場合があります。
女性が嫁ぐ際、実家の家紋を入れた喪服を花嫁道具として持参する風習を持つ地域がありますが、結婚後に行われる葬儀に出席する際、「嫁入りしてきたのだから、当家の家紋入りの喪服を着るべきではないか」という指摘がしばしばあるようです。
別に「実家の家紋入りの喪服を着るのはマナー違反」というわけではなく、本来は実家の家紋でも婚家の家紋でも、どちら側の葬儀でも着ることができます。しかしこれは決まりというより気持ちの問題ですから、こういうトラブルが発生しないよう、喪服の家紋についても、親族が集まる席で何かの折に話し合っておいた方が良いのかもしれません。